コンソーシアムニュース

20年10月
さがまちカレッジ人気講師が推せんする「わたしの一冊・わたしの一本」 田畑雅英先生

新型コロナウィルス感染症の影響でお家で過ごす時間が増えた方が多いと思います。
そこでさがまちカレッジでは、これまでに様々な分野の講座を担当していただいていた先生方に、
【おすすめ】先生が担当した講座に関する勉強ができる作品
【おためし】新しいことを勉強する良いきっかけになる作品
【お気に入り】先生の好きなことに関する作品や、先生の心に残る作品
の3つの分類から書籍や映像作品などを紹介していただきました。

「読書の秋」の今月は、一般講座の先生方からの推薦作品を紹介していきます。

この機会に新しい一冊、新しい一本との出会いを楽しんでいただけるとうれしいです。

今回は、相模女子大学学芸学部メディア情報学科の田畑雅英先生です。
田畑先生からは、講座でも取り上げたミュージカル、オペラを1本ずつと情緒あふれる邦画をご紹介いただきました。
田畑先生が担当したさがまちカレッジ:ミュージカルの心理劇/シネマdeオペラ

【おすすめ】オペラ座の怪人 25周年記念公演 in ロンドン
対象:一般の方
紹介文:1986年に初演されて以来、両世紀をまたいでロングランの大記録を樹立し、ミュージカルの代名詞のようになった『オペラ座の怪人』の25周年記念上演の録画。ロイヤル・アルバート・ホールでの公演で、この作品が持つ官能とヒューマンな息遣いを映画版よりもよく表現し、本来の舞台作品としての魅力を伝えている。官能性は劇中劇『ドン・ファンの勝利』の場面で、人間的な感情の交流は最後にクリスティーヌがファントムに指輪を返す場面で、とりわけよく感じ取れる。3人の主役(ファントム、クリスティーヌ、ラウル)は、歌唱・演技ともに優れている。少し残念なのは、カルロッタ役に予定されていたソプラノ歌手キーラ・ダフィーが直前でキャンセルしたこと。容姿・歌唱ともに通念とはまったく異なるカルロッタ像が生まれたと思うのだが。

 

【おためし】ラ・ボエーム(ランベルト・ガルデルリ指揮)
対象:一般の方
紹介文:ミュージカル『レント』の原作。ミュージカル・ファンにもそうでない方々にも親しみやすいオペラとして選んだ。四人の芸術家志望の若者たちと二人の女性の織りなす青春ドラマであり、その中の主人公二人の悲恋物語であるが、甘美であると同時にほろ苦い回顧の趣もあり、むしろ青春を過ぎた大人の鑑賞にこそふさわしい。
『ボエーム』と言えばゼッフィレルリの華麗でありながら詩情にも満ちた演出が有名だが、イギリスのロイヤル・オペラで長らく上演されていたコープリーの演出はもっと細やかで密度が高く、どなたにもなじみやすいと思う。この演出には新旧2種のDVDがあるが、あえて古い方を選んだのは、若者たちのアンサンブルもさることながら、ヒロインのミミを歌うコトルバスが大きなポイントである。絶対に死にそうにないミミが多い中で、コトルバスのミミは青春の幻影のようなはかなさも感じさせて出色。やや地味ながら、演出のコンセプトにぴったりはまっている。

 

【お気に入り】忍ぶ川(熊井啓監督)
対象:一般の方
紹介文:「あんたの『はい』って声だけ聞けたら、帰ってもいいと思って」。小料理屋「忍ぶ川」で働く志乃を二度目に訪れた哲郎は言う。「はい」という短い言葉には彼女の人格が凝縮されている。それを声と表情で説得力をもって表現した点で、志乃はまさに映画的なヒロインであると思う。
一見おとぎ話のように単純な恋物語に見えるが、生きようとする意志と「恥」「滅び」の呪縛とが相剋する中から別次元の生が成就する、いわば日本的な弁証法とも言うべき構造を持った映画である。かつて死の象徴であった海鳥の群れのイメージが二人の初夜に再現されて葛藤の終焉を表わし、夜明け前の馬橇が静かに再生を告げる。
さしたる教育も受けず、親兄弟は寺堂に寓居するという貧窮にありながら、志乃は矜持(「プライド」というよりこの古風な日本語の方がふさわしい)を失わず、その言動は折り目正しい。人が苛酷な現実の中にあってもこのようであり得るということが、この映画の最大のおとぎ話かもしれない。あり得ないと思いつつ、それを信じたいという気持はどこかでする。