大学生が子ども用車椅子で繋ぐ途上国と先進国

相模女子大学の学生が行う「海外に子ども用車椅子を届けよう!プロジェクト」とは一体どのような取り組みなのか、また参加している学生は何を思っているのかを、リーダーの佐野さん、3年生の川田さん、大村さん、2年生の工藤さん、倉持さん、1年生の池田さんにお聞きしました。

『海外に子ども用車椅子を届けよう!プロジェクト』の概要を教えてください。

佐野さん:もともと2011年の東日本大震災で、タイからたくさんの支援を頂いたので、そのお礼として始めたのがこのプロジェクトです。その後、タイだけでなく、ミャンマー、ラオス、マレーシアといった様々な途上国に、日本で使われなくなった子ども用車椅子を届けるという活動を行っています。

ー参加しているメンバーは何人ですか?

佐野さん:現在(取材当時、2021年2月)、4年生が卒業して、3年生が主体となっています。3年生が8名、2年生が10名、1年生が14名の合計32名と顧問の担当の先生1人という形になっています。

プロジェクトメンバーの皆さん

ー定期的なミーティングはいつ行っているのでしょうか?

工藤さん:定期的なミーティングは毎週月曜日のお昼休み12時20分から13時ぐらいまで行っています。

ーこれまでに届けた車椅子の台数はどのくらいですか?

佐野さん:2011年の活動開始以来、2012年・2013年ともにタイに80台、2014年マレーシアに80台、2015年タイに90台、2016年カンボジアに90台、2017年ミャンマーに90台、2018年はラオスに90台送ることができました。2019年は、コロナの影響で台数は減ってしましまいましたが、毎年約80~90台の車椅子を海外に届けています。

梱包した車椅子のコンテナ詰み

ーそれだけ多くの子どもが車椅子を必要としているということですか?

佐野さん:そうですね。最初に日本で使われなくなった(車椅子を届ける)という表現をしたんですけれど、日本だと医療や福祉の制度がしっかりとしているので、子どもの身体の成長に合わせて少ない負担で買い替えることができます。しかし、途上国だとそういった制度がなかったり、貧困の問題など購入することができない子どもが多いので、どうしても台数は多くなってしまいます。向こうで欲しい方がたくさんいるということですね。日本と比べて(環境や遺伝の関係で)障害をもって生まれてくる子どももどうしても多くなってしまうと思うので、必要な子どもも多くなっているという現状です。

ー直接現地に車椅子を渡しに行ったときのスケジュールはどのようなものですか?

川田さん:1週間くらい、ラオスに行ったんですけど、だいたい5日間は車椅子の活動をして、残りの2日は観光などでした。5日の間でやることは、私たちが届けている車椅子を使っているお宅に行く家庭訪問と、現地の学校に行って、歌を歌ったり子どもたちと触れ合う学校訪問と、私たちが修理・梱包したものを何十台かまとめて渡す贈呈式です。

大村さん:そうですね。その贈呈式と家庭訪問が大きなメインですね。

海外訪問贈呈式の様子

ー現地でのコミュニケーションはどのように取るんですか?

大村さん:ラオス…タイ語みたいな感じのラオ語です。

川田さん:都心のほうだったら英語で通じることもあるんですけど、地方は英語が通じないので、通訳の方に一緒に付いて行ってもらって、修理の仕方やどういう状況かといったことを、確認するということが主でした。

ーみなさんがこのプロジェクトに参加したきっかけを教えてください。

佐野さん:私は、高校までに様々なボランティアに参加してきて、地域の方や外国の方との交流を通して、素晴らしいな、この経験をずっとやりたいなっていうのを入学するときから思っていました。大学を調べる中で、相模女子大学の車椅子を届けるという活動を知って、このプロジェクトは‟海外”ということはもちろんですが、‟子ども用車椅子”なので、教育学を学んでいる私は、日本に住む障害のある子どもとか海外に住む障害のある子どもにも触れ合うことができる・交流するきっかけだと思ったので、参加しました。

工藤さん:中学・高校で、父の仕事の関係で海外に行く機会が多かったので、入学する大学が決まったときから、海外に関係のあるボランティアを何かやりたいな、という風に思っていて、その中で、選んだのがこのボランティアでした。また、大学に進学する前の高校2~3年生のときに、保育士になりたいと思っていた時期があって、子どもが好きなので、生活に不便を感じる子どもたちの助けをしたいと思って、このボランティアに参加しました。

池田さん:私は、大学で子どもについて勉強しているんですけど、(プロジェクトに参加することで)海外の子どもたちと関わることができるので、日本に住んでいる海外の子どもたちのことも知ることができるかなと思って、このプロジェクトに参加しました。

ーみなさん、‟英語”や”海外”ということよりも‟子どもと触れ合える”というほうが、影響が大きかったんですか?

佐野さん:どうなんだろう…(笑)参加している学生の学科としては、英語文化コミュニケーション学科(以下、英文科)と子ども教育学科と社会マネジメント学科の3つくらいなんですけど、割合としては英文科が一番多く所属しているグループなので、さっき海外訪問の話でもあった贈呈式の途中で、スピーチを行っているんですけど、そこでは英語のスピーチなので、英文科の力を借ります。(英文科の)英語力を活かして活動しているという部分も強くあります。

ー現地に直接車椅子を渡しに行ったときの反応はどうでしたか?

大村さん:子どもたちに車椅子を渡したときの反応は、すごい笑顔になって喜んでくださって、(その子たちの)ご両親とかもいたんですけど、涙ぐんでいる方とかもいらっしゃったので、自分たちの行っているこの活動を、そうやって喜んでくれる人がこんなにもいるんだっていうのを思って、これから活動していくのに、大切に車椅子を扱って届けていかなきゃいけないなという風に感じて、気持ちの入れ替えができたかなと思います。

川田さん:大村さんと似たようになってしまうんですけど、直接渡すことで、必要としている子どもたちの笑顔を見られたというのは私の中でもすごい大きくて、日本に戻ってからの活動でも、あの子たちのためにもっと頑張ろうとか、もうちょっと細かくやろうとか、元気とやる気に繋がったなと思います。

海外訪問贈呈式の様子

ミーティング・勉強会について

工藤さん:車椅子のプロジェクトでは日光に行ったり色々な別のイベントもあるので、ミーティングでは、そのイベントの連絡や意見交換をしたり、他には”コロナの影響で定例会がなくなってしまいました”とか、”人数このぐらいにしてください”などの連絡をしています。

工藤さん:勉強会は、通常、新入生が入ってからその勉強会を通して車椅子の知識を知ってもらい、その後、定例会に参加してもらいます。定例会というのは車椅子を整備したり清掃したり梱包したりする作業です。例年は5、6月くらいに勉強会は設定しているのですが、昨年度はコロナの影響で勉強会は行いませんでした。コロナがなければ、毎年、新入生が入った後、授業が空いている18、19時くらいから勉強会があり、車椅子の種類や坂道の時の押し方など、車椅子の扱い方や仕組みについて学びます。

ー去年勉強会を行わなかったとおっしゃいましたが、1年生は今年14人もいらっしゃるんですね。

工藤さん:そうですね。新メンバー募集会というのを今年の2月から2回行って、それで入ったメンバーです。昨年の5月のときは、1年生はいなかったと思います。

ー車椅子を送る活動だけではなく地域のイベントにも参加しているようですが、それについて詳しくお伺いしたいです。

倉持さん:夏に相模大野で『もんじぇ祭り』という、相模大野の飲食店が出店するお祭りが開催されているんです。そこで私たちもお店を出させていただいて。私たちのプロジェクトは日光とも関わりがあって、そこでは日光の天然かき氷を販売しました。他には相模大野とブラジルも繋がりがあってブラジルソーセージを販売して、そこで活動の報告も行いました。同時に募金も行って募金や収益を活動費にまわしたり、収益集めも意図して行なっています。

ー車椅子を届けるだけではなく、報告や活動費に関わることも行っているということなんですね。

ープロジェクトに参加して変化したこと、気付いたことはなんですか?

倉持さん:このプロジェクトに参加する前は、車椅子に触れたこともなかったし海外との関わりや車椅子を送る活動も知らなかったんですけど、先輩方が勉強会などを開いてくれて、車椅子の知識や活動内容を一から勉強することができました。まだ海外に行ったことはないんですけど、送った先の状況を実際に聞くことができて、この活動も何のためにやっているのかちゃんと理解して行えていることが、得たものかなと思います。

佐野さん:この活動を通して学んだことは、さっきも少し話しましたが日本の医療制度がすごい手厚いなということ。住んでいるだけではあまり感じることができなかった部分を知ることができました。また、途上国に住む子どもたちはそういった制度を十分に受けられず、ずっと家で寝たきりの生活とか、同じ景色を見ることしかできない生活を送っていることも、この活動を通して知ることができたと思っています。
また、この活動はNPO法人の『海外に子ども用車椅子を送る会』という母体があるのですが、そういったNPOの方とか、車椅子を送る際の定例会にボランティアで参加してくださっている地域の方、高校生の方、日本で働いている外国の方、そういった多くの人の力があって活動が行われていることを強く感じることができています。

大村さん:私は結構人見知りなところがあったんですけど、学部、学科が違う仲間、NPOの方、はじめて会う方や大人の方(と関わる機会)が多かったりするので、話さなきゃいけないというか。そういう環境にいることで、自分から話しに行くことができたり、積極的になれたかなと思うので、この活動に参加して自分はすごく成長できたかなと思います。まだまだなんですけれど、自分にとっては大きな変化だったかなと思っています。

ーSDGsにも通じる活動だと思いますが、SDGsについてどう感じていますか?

川田さん:私自身もSDGsに興味をもっていて、色々調べてみたりしているんですけど、車椅子をSDGsに繋げるとしたら、『つくる責任 つかう責任』と『すべての人に健康と福祉を』に繋げられるのではかなと思います。

『つくる責任 つかう責任』
車椅子って一台にすごくお金がかかるんですね。実際購入するとなると保険がきいて、少しは安くなるんですけど、すごくお金がかかるし、時間とか色々必要になってくるんです。でも子どもたちってどんどん大きくなっていくじゃないですか。だから、それに合わせて買い替えなきゃいけなくて、いらない車椅子が増えていってしまいます。使われなくなった車椅子を別の必要としている人たちに渡すことで、使う責任として循環というか、まわしているんじゃないかなと思います。

『すべての人に健康と福祉を』
私が実際にラオスに行って、車椅子を渡したときに、“これで暮らしが楽になる”って親の方が言ったんですよ。だから使う人だけじゃなくて、その周りの家族やみんなを、少しだけでも楽にすることができるんですね。なので、車椅子1つあるだけでも生活をよりよく、家族をよりよくできるっていうところが、SDGsの2つのことに繋げられているんじゃないかなと考えています。

工藤さん:私は英文科に通っているんですが、その授業の特別講義でSDGsに関して勉強させていただいたりしています。私が思うのは、日本で作られて、使用されていた車椅子を破棄するんじゃなく、整備・清掃・梱包して海外の方に届けてリサイクルすること。また、車椅子を手にするのが経済面や技術面で困難な子どもたちに、リサイクルして使ってもらうということが、この活動の中ではSDGsに関して一番身近なことかなと思っています。
このプロジェクトに入る前、“子どもの靴と同じで、サイズが合わなくなったものは普通捨ててしまうけれど、そうではなくて海外の子どもたちを少しでも多く助けられるように、子ども用車椅子の整備・清掃をしてるんだよ”と教えてもらったので、その部分はSDGsに関係があると思います。
海外の方もやはり新しいものが欲しいと思うんですけど、無料で提供しているってところでも、経済の貧富の差とかも、少しでも埋める手助けになっているんじゃないかなと思います。

佐野さん: 途上国と先進国との差は、まだすごくあるのかなと私自身も感じています。だからといって、途上国は先進国に助けてもらう、という精神ではなく“共に頑張りましょう”というものだと思っていて、そういうことが必要なのかなと思っています。

佐野さん:(この活動は)”日本でいらなくなったから届けている”というものではない、とNPOとしても言っています。この活動は海外に車椅子を届けて終了ではなくて、タイヤの空気が抜けたときはどう入れるのか、部品が歪んでしまったときはどう直すのか、といった修理のレクチャーも海外訪問の際に行っています。もし、海外に送った車椅子が壊れた時、”壊れたからじゃあ捨てます”となると、結局向こうの国でゴミになってしまい、廃棄物が増え、環境に良くないと思うので、向こうの国で修理し続けながら、リサイクルして、まわして欲しいという思いがあります。
私たちにとっての当たり前のこと、(例えば)外に出て散歩を楽しむとか、家族とお出かけするとか、障害があってもみんなと同じように教育を受けられるだとか。そういった当たり前の小さな幸せを、途上国の子どもたちへ届けるきっかけや、始まりになれたらなと思っています。

ー日本では車椅子って使い終わったら結構捨てられてしまうものなのでしょうか。

川田さん:そうですね。大人になれば体が大きくなることはほぼなくなるので、恐らく、買い替えはしないと思います。ですが子どもだと、体が大きくなるので体に合わせたものを買わないと、姿勢がおかしくなったり、姿勢が整っていない状態だと生活も難しくなってしまいます。それで買い換えるため、捨ててしまう人も多いのかなって思います。

ーでは日本の方がこの活動を知れば、もっと送れる車椅子の数が増えるかもしれないということですよね。

川田さん:そうですね。あとは全国的にこういう活動が増えてくれれば、車椅子を準備できる場所が、もっと増えるんじゃないかなと。やはり、この場所だけだと(作業を)行える数も限度があると思うので、車椅子の数が増えれば増えるほど、必要としている世界の子どもたちに届ける機会が多くなると思いますし、そういう場所が増えればいいなと思います。

ーぜひ日本の皆さんにこの活動を知っていただきたいですね。

ー最後に、このプロジェクトを通してどのような世の中になってほしいですか?

佐野さん:途上国に住んでいる障害のある子どものことや、日本に住んでいる障害のある子どものこと、車椅子のことだとか…車椅子にも色んな種類があって、一人一人ちょっと違って、その子の特徴とか特性に合わせた車椅子になっているんですけど、そういったことを知らない人がほとんどだと思います。そういった人たちに今の日本の現状、海外の現状というのを知ってもらいたいし、私たちはこういった活動しているんだっていうことを、少しでも気に留めてくれたらなと思っています。
世の中が“当事者だから” “当事者じゃないから”だとか、“私には関係ないから私は知らないよ”みたいな無関心っていうのではなくて、少しでも周りを思いやる心とか、他者を思いやる心がある社会になってほしいかなと思います。これからを作るのは、私たちの世代が中心になっていくと思うので、そういった社会に出来ればなと思っています。

川田さん: 私は2つ考えています。1つ目は、日本でもっと車椅子に興味を持ってもらえるようになったらいいなって思います。私自身、このボランティアに入っていなければ車椅子の知識も全くつかなかったと思いますし、車椅子の人を見てもあまり何か思うってことはなかったと思うんですけど、活動を通して、車椅子の奥深さや、誰かのためになっているということを知ってから、私がもっと役に立てればいいなと思うことも増えました。
車椅子の方とすれ違ったり、車椅子を見かけると嬉しくなるんですよ。ああ、使ってるなあ、みたいな。 車椅子が誰かのためになっているのを見ると、他人事じゃなくなったというか、良いなというふうに思っています。
2つ目は、発展途上国の子どもたち含め、幸せな生活を送って欲しいなと思っています。先ほど言ったように、実際に海外に行って本人だけじゃなく、“家族も生活が楽になる、豊かになる”って言ってくれたのが、私の中ですごく嬉しくて。微力ながら、車椅子を海外に送れてはいるのですが、私がやってることが無駄じゃなくて、誰かに必要とされているんだなってことをすごく感じて、ここにいる意味があるんだっていうのを本当に心から思ったんですね。
私は4月から4年生になるので残り1年間ぐらいしかないんですけど、この活動を通してもっと子どもたちとその家族の生活が豊かになってほしいなと思います。

大村さん:子ども用車椅子は特に認知度がまだ低いので、その認知度が上がれば子ども用車椅子を使っている人たちも、住みやすい街になっていくんじゃないかなって思っています。
海外に届けていくことで、多くの人が幸せになってくれたらいいなって思うので、今コロナの影響で制限がかかってしまっている部分はあるんですけど、これからもこの活動をして、多くの人に幸せを届けていけたらいいなと思っています。

相模女子大学『海外に子ども用車椅子を届けよう!プロジェクト』メンバーの皆さん

3年生:佐野莉桜さん、大村亜実さん、川田桃菜さん
2年生:工藤美紗希さん、倉持あかねさん
1年生:池田あゆみさん

海外に子ども用車椅子を届けよう!プロジェクト
InstagramID : kurumaisu.pj.sagajyo

取材を終えて感じたこと

 私たちもこの取材をするまでは、車椅子を海外の子どもたちに届けるプロジェクトがあることや、子ども用車椅子が捨てられてしまっている現状を知らずにいました。そもそも、子ども用車椅子は成長に合わせ買い替えなければいけないことも知りませんでした。正直なことを言えば途上国のことに関しても、遠い国のことと思ってしまっている自分がいたのも事実です。

 しかし、私たちと変わらない大学生の方々がこのような活動をしていることで、私たちに全く関係のない問題ではないと感じ、学生だとしても行動できることがあるのだと知ることができました。

 また、プロジェクトメンバーの方々がお話していたように、海外の子どもたちの現状を知ること、この活動を知ることが、途上国の子どもたちの力になる第一歩なのだと思います。

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